2018年03月10日
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タバコが口腔に及ぼす怖い病気

タバコが口腔に及ぼす怖い病気 

健康への悪影響が色々と指摘されているタバコですが、それは口腔(口の中)も例外ではありません。口腔はタバコの有害物質が直接触れる部分のため、タバコによる影響が及びやすいとされています。タバコが口腔に及ぼす病気にはどのようなものがあるのでしょうか?

歯周病

タバコを吸うことで影響される口腔の病気の代表は歯周病です。歯周病は、ごく初期のものを含めると35歳以上の8割に兆候があると言われる身近な病気ですが、喫煙者の歯周病は進行が早く、重症化しやすい傾向があります。アメリカで行われた大々的な歯周病に関する調査では、喫煙者の発症のリスクは非喫煙者の3.97倍と報告されています。

歯周病が発見されて歯科で治療を始めたとしても、1日の喫煙本数が20本を超えるような人では治療の効果が得にくく、同じ治療内容でもタバコを吸わない人との回復の差が見られることが多いようです。

歯周病に対してタバコが与える影響については研究が進められている最中ですが、
・タバコの有害物質によって免疫機能が低下し、歯周病菌への抵抗力が落ちる
・一酸化炭素やニコチンの作用で歯肉の血液量や酸素量が減り、歯肉が弱くなる
・細菌に対する免疫反応が自己破壊的になる
・歯肉や骨の再生機能が弱くなる
などのメカニズムが関与していると考えられています。

タバコを吸う人は毛細血管の血流が減り、歯周病初期症状の歯肉からの出血がおこりづらくなります。そのため歯周病にかかってもなかなか自覚ができないのですが、歯を支える歯槽骨の消失など重度の症状が出やすいのが特徴で、歯周病で歯を失ってしまうリスクが高まります。

歯周病は、軽度のうちは歯肉が腫れたり軽く出血したりが症状ですが、進行すると歯を支えている歯根膜や歯槽骨が破壊され、歯がグラグラとするようになります。そのまま放置して悪化すれば、最後は歯が抜け落ちてしまう可能性のある怖い病気です。

歯周病は細菌による感染症の1種で、細菌が生み出す毒素に刺激され、免疫反応がおこって歯肉や骨に炎症が進んでいきます。最近では、歯周病の影響は口腔にとどまらず、全身の血流にのって様々な臓器に影響する可能性が指摘され、糖尿病や動脈硬化との関連も注目されています。

昔は不治の病気と言われた歯周病ですが、現在は予防法や治療法の進化で改善が可能になってきています。けれど、タバコを吸う人では治療効果が得にくく、一旦かかると重度の歯周病に進行してしまう割合が高いと言われています。
歯周病をきっかけに禁煙や減煙に成功した場合、その後の歯肉や骨の状態が良くなるケースが見られるため、歯周病予防・改善のために禁煙が推奨されています。

白板症・口腔がん

胃がんや肺がんなどに比べると知名度の低い口腔がんですが、日本では年に約7500人の人に口腔がんが発見されています。白板症はがんに進行する一歩手前の病変で、口腔の粘膜に白く硬い板状か斑状の変化がおこります。

口腔がんは口腔にできるがんの総称で、舌がん、上下歯肉がん、頬粘膜がん、口底がん、硬口蓋がん、口唇がんが含まれます。口腔がんまで進行した人のうち、命を失う人は46.1%(日本での数字)と死亡率の高いがんの1つです。一番目立つのが60歳代で、3:2の比率で男性が優勢です。男性に多いのは、喫煙者の割合が高いからという説もあります。

白板症や口腔がんとタバコの関連性は様々な研究で指摘され、それが直接的な原因とまでは断言できないものの、良くない影響を及ぼすことは間違いがないと考えられています。2004年の米国公衆衛生総監報告では、喫煙と口腔がんの科学的な因果関係が示されました。

タバコは、口腔がんに限らず全身のがんに対する悪影響が言われています。喫煙者の人は体全体の免疫力が落ち、様々な病気に対する抵抗力が落ちることがわかっています。
また、タバコの主成分のニコチンは、長期間摂取すると発がん性物質として作用し、粘膜の炎症やDNA損傷の原因になる可能性が指摘されています。

タバコに含まれる有害物質は約200種とも言われます。それらが直接触れる口腔、喉、肺などではとくに影響が及びやすく、口腔がんの予防策として禁煙も大きな目標に掲げられています。
タバコによっておこりやすいがんと言えば肺がんというイメージがありますが、実は口腔がんも、喫煙によるリスクの及びやすいがんの代表とされています。

インプラント周囲炎

歯を失ったときの治療法として急速に人気が高まっているインプラントですが、ヘビースモーカーの人にはインプラント治療がすすめられないことがあります。その理由は、ヘビースモーカーの人は歯周の血管や機能が弱くなっている人が多いことや、天然歯におこる歯周病と同様の感染症が発生しやすいことなどがあり、インプラントにともなう様々なリスクが高くなるためです。

インプラント周辺におこる感染症はインプラント周囲炎と呼ばれます。インプラント周囲炎がひどくなると、せっかく埋めたインプラントがグラグラしたり、抜け落ちてしまったりすることがあります。インプラント周囲炎は放置すると他の部位にも広がって、残っている歯や骨にダメージを与えてしまうこともある怖い病気です。

インプラント治療後に適切なセルフケアや歯科医院での定期検診を受けていれば、インプラント周囲炎は多くの場合防げます。けれど、ヘビースモーカーの人ではインプラント周囲炎の管理が難しい傾向が見られ、タバコを吸わない人に比べると、感染症やインプラント喪失のリスクが高まります。

口臭・着色・口腔の不衛生

タバコによって特別な病気にかかることは無かったとしても、タバコを吸うことで口腔内は不衛生な状態になりやすくなります。タバコを吸う人は、吸わない人よりも高確率で口臭、歯の着色、口腔内の出来物、傷の悪化などが目立ちます。

口臭や着色にとくに影響するのはタバコに含まれるタールです。タールはヤニと呼ばれるものですが、粘り気があるので歯や歯肉に張り付き、食べかすなどの汚れを巻き込んで頑固にこびりついてしまいます。その汚れは普通の歯磨きや洗口液では落とせず、口臭や着色がおこります。タールの色素は歯に付着しやすく、黄ばみや黒ずみの原因になります。

それは見た目やエチケットの面だけでなく、口腔が不衛生になることで、むし歯や歯周病にかかりやすくなったり、小さな傷が深刻な状態に悪化しやすかったりするデメリットが生まれます。

また、タバコの主成分のニコチンや一酸化炭素は、歯肉の毛細血管の血流や酸素を不足させ、組織の働きを弱めてしまいます。血流や酸素量が不足すると、歯肉や歯周の細胞には必要な栄養が運ばれにくく、老廃物はたまりやすくなります。そのため、タバコを吸う人の歯肉は色が紫がかったり、白っぽくなったりして不健康な状態が目立つようになります。

受動喫煙による子どもの口腔への影響

タバコの害は、吸っている本人だけに及ぶわけではありません。最近は、喫煙者の多い環境に置かれた非喫煙者、とくに子どもの受動喫煙による健康被害が問題になっています。

親が家で日常的に喫煙する子供の歯には、タールによる着色が見られることがあります。親がヘビースモーカーだと子どもがむし歯にかかりやすくなるという研究報告もされています。
また、妊娠中の母親が喫煙者だった場合、早産や流産のリスクが高まる他、赤ちゃんの唇が先天的に裂けた状態になっている口唇口蓋裂のリスクが高まることも指摘されています。

口の健康に対するタバコの悪影響は、様々な研究や調査から示されてきています。歯周病、口腔がん、インプラント周囲炎などの病気だけではなく、美しく健康な歯を少しでも長く保つためにも、子どもたちの健康な発育のためにも、現在は世界各国で禁煙への取り組みがされるようになってきています。