2018年04月07日
歯周病

歯周病になると全身にも影響する事

歯周病になると全身にも影響する事 

放置したまま悪化すると歯を支えている骨が溶かされ、最後は歯が抜け落ちてしまうこともある歯周病。けれど、歯周病の恐ろしさはそれだけではありません。最近は歯周病と全身の健康との関わりが様々な研究で報告され、血糖値や動脈硬化などにも影響する事がわかってきています。それ以外にも、早産のリスクが高まったり、リウマチを悪化させる因子になったりという事も指摘されています。

歯周病の影響が指摘されている全身の病気

現在歯周病の影響の可能性が指摘されている全身の病気には、
・糖尿病
・動脈硬化、脳梗塞
・心内膜炎
・認知症
・誤嚥性(ごえんせい)肺炎
・関節リウマチ
・骨粗しょう症
・口腔がん
・早産
などがあります。

歯周病は口の中の病気のはずなのに、全身の健康に影響すると聞くと少し不思議な気もしますが、歯周病は強力な細菌による感染症の1種です。歯周病が悪化してくると、毛細血管から歯周病菌が入り込んで血流にのり、全身の様々な組織にも炎症をおこし被害を及ぼす可能性があります。

炎症は、細菌をやっつけるための細胞たちの戦いです。その反応は感染した部位だけではなく、全身をめぐる物質や分泌物に変化をおこします。どこかの小さな傷口から入った細菌や風邪のウィルスが命に関わることもあるように、歯周病も全身に影響する恐れのある炎症性疾患の1つです。

歯周病は風邪やケガのように激しい症状や痛みがおこらず、「ちょっと歯肉から血が出るけど、痛くないからまぁいいか」と放置されがちです。けれどその分ジワジワと微細な炎症を起こしながら静かに進行し、歯肉や歯を支える骨などにはもちろんのこと、見えないところで他の部位にも悪影響を与え続けることがある厄介な病気です。

また、口内は消化器官の一部です。唾液の中にも歯周病菌は存在し、そこから体内に入ることもあります。放置された歯周病は、口の中の汚れを元に細菌が住み着いて繁殖し、日々有害な物質を産生し続けているような状態です。歯周病の悪化で歯が噛む機能を失えば、食事にも支障が及びます。全身の健康に影響するのは避けられないと言えるかもしれません。

歯周病が全身に与える具体的な影響にはどのようなものがあるのでしょうか?

血糖のコントロールを悪くする

現段階で歯周病との関連が確実にわかってきているのは糖尿病です。糖尿病は、すい臓から分泌されるインスリンという糖を処理するためのホルモンの機能が落ち、血糖値が上手くコントロールされなくなる病気です。インスリンが働かず高血糖の状態が続くと体の様々な部位にダメージを与えるため、血糖のコントロールは全身の健康には欠かせない要素です。

糖尿病にはインスリン機能不全のⅠ型と生活習慣病のⅡ型があり、圧倒的に多いのはⅡ型の方です。Ⅰ型はインスリンの自己注射が必須ですが、Ⅱ型は食事改善や運動療法や薬の使用によって血糖コントロールを行い、進行をある程度防ぐことができます。

まだ糖尿病と言えるレベルに達していない人も、高血糖の状態が続けば発症の可能性が増えます。糖尿病に限らず、高血糖は全身の健康に色々な弊害を及ぼすことも指摘されています。

血糖コントロールの手段としては、糖質を控えた食事、食べ過ぎないこと、運動習慣、禁煙などがあげられていますが、最近は歯周病の改善も重要な1つとされています。糖尿病の患者さんが徹底した歯周病の治療を行うと、血糖のコントロールが良くなるケースが多いことが報告されています。

糖尿病にかかると全身の免疫力が低くなり、歯周病も含めた感染症に対する抵抗力が落ちて進行が速まります。歯周病になれば糖尿病が悪化し、糖尿病が悪化すれば歯周病も悪化する…。歯周病と糖尿病は、そんな負の連鎖の中で互いに悪影響を与えていくのです。

なぜ歯周病と糖尿病が深く関連するかについては現在も研究が進められている最中ですが、最近は歯周病の骨吸収を促すTNF-αという物質が注目されています。TNF-αは細胞がつくり出す伝達物質の1種で、歯周病にかかると体内で増えます。TNF-αはインスリンの働きを阻害してしまう作用もあり、これが血糖コントロールの悪化を促進させるのではと考えられています。

動脈硬化や血栓を増やす

口内で感染した歯周病菌が全身の血管を巡ると、動脈に炎症がおこる可能性があります。炎症がおこった血管は壁が厚く硬くなり、血液が流れにくい動脈硬化の状態になります。そこに血栓ができる場合もあります。動脈硬化は、脳梗塞や心筋梗塞などの重大な病気の引き金の1つです。

動脈硬化には食事や喫煙などの因子も大きく影響するため、歯周病との因果関係が明確にわかっているわけではありませんが、血管と歯周病との関連は、バージャー病(閉塞性血栓血管炎)の患者さんの調査によっても示されています。

バージャー病は手足の血管が詰まり、悪化すると手足を切断しなければいけないこともある難病の1つです。若い男性に多く発症し、根本の原因は未だにはっきりとわかっていませんが、バージャー病の患者さんの血管の多くから歯周病菌が検出されたという報告があります。

また、歯周病予防や治療への意識が高まった日本や各国ではバージャー病は減少していますが、歯科治療が充実していない国では多く見られる傾向があることから、歯周病がバージャー病の危険因子なのではないかという説があがっています。

妊婦さんや赤ちゃんへの影響

アメリカ・ノースカロライナ大学の研究調査では、中・重度歯周病の妊婦さんは早産や低体重児出産のリスクが高いと報告されています。その割合は健康な口内の妊婦さんに比べて7倍とも言われています。歯周病が悪化すると、陣痛を促進するプロスタグランジンE2というホルモンが増加することがわかっています。

歯周病菌は女性ホルモンの影響で増えることがあり、妊娠をすると歯周病にかかりやすくなります。さらに、妊娠中はつわりの影響で歯が磨けなかったり、食生活が偏ったりとお口のトラブルがおきやすい環境です。

昔は、妊婦さんが歯が悪くなる原因について「赤ちゃんにカルシウムを取られるから」と言われていましたが、現在その説は否定されています。妊娠中はホルモンや歯磨きしにくい環境の影響が大きく、口内の健康が左右されやすいことがわかっています。

肺炎の引き金になる

口内は、気管を通して肺ともつながっています。肺に歯周病菌が入り込むと炎症性の肺炎を引き起こす危険性があると言われています。とくに、飲み込みの機能が衰えた高齢者の人は、食べ物や唾液が気管に流れ込んでしまうリスクが高く、誤嚥性(ごえんせい)肺炎をおこしやすいので注意が必要です。

関節の炎症を強める

歯周病は、関節リウマチとの関連も指摘されています。関節リウマチは、自分の関節をなぜか異物として免疫が攻撃してしまう自己免疫性疾患の1つです。指、ヒザ、ヒジなどの関節に痛みや腫れ、組織の破壊などの炎症反応が見られます。関節リウマチの患者さんが中度以降の歯周病にかかった場合、関節の炎症が強くなるケースが多いという報告があります。

腎臓や肝臓への悪影響

全身を巡る歯周病菌と各組織の関連については多くの調査がされ、明確な結論はでていないものの、腎炎や肝炎を悪化させるリスクも指摘されています。

認知症のリスクを高める

歯周病によって歯を失った本数の多い高齢者の人では、認知症のリスクが高まると言われています。そこには様々な要因が絡むと考えられ、歯周病菌による脳血管の硬化や、噛む機能が失われたことで脳への刺激が減ること、栄養状態が悪くなることなどが危険因子としてあげられています。

歯周病は改善が望める病気です

歯肉や歯の骨だけではなく、全身の健康に影響する可能性がある歯周病。昔はその原因もわからず、一度かかると治すことができない不治の病と言われていましたが、現在は改善が可能な病気ということがわかっています。

改善のために一番重要なのは、歯周に汚れをためないことです。歯周病菌は、歯と歯肉の間にできた歯周ポケットという溝に多く住み着きますが、この部分の汚れは自宅での歯磨きや洗口液の使用ではなかなか落とすことができません。状態を知って適切なお手入れをするためにも、歯科医院での定期的なチェックとクリーニングがすすめられています。