2018年07月03日
矯正歯科

抜歯矯正か非抜歯矯正か

抜歯矯正か非抜歯矯正か

抜歯矯正とは

矯正治療とは、歯並びを整えるために行います。これは見た目の問題だけではありません。噛み合わせを正しくすることで、しっかりと食べ物が噛めるようになり、消化器にかかる負担も軽くなるのです。

しかし、日本人は欧米人に比べて顎の幅や奥行きが短いという特徴があります。そのため、すべての歯をパランスよく配置しようと思っても、口の中の面積が小さくて不可能なことも多いのです。成長期なら顎の発達を促すこともできますが、成人の場合は今以上の発達は望めません。

その限られたスペースにバランスよく歯を並べるため、あらかじめ数本の歯を抜いてから、矯正治療を始めることがあります。これが抜歯矯正です。

抜歯矯正のメリットとデメリット

抜歯矯正では、口内のスペースに合わせて歯の本数を調整するため、歯の移動がスムーズに行えます。さらに外見としても、すっきりとした小顔に見えるという長所があります。

その反面、抜歯によるデメリットも。抜歯した部分は、歯を支える歯槽骨が衰えてしまうため、噛む力が衰えてしまうことがあります。歯の本数が少なくなるため、他の歯の負担は多きくなり、咬み合せの問題が出やすくなります。また、歯を抜いたスペースを埋めるために、歯の移動距離が長くなり、矯正に時間がかかってしまうこともあります。

非抜歯矯正とは

いくら歯並びを整えるためとはいえ、健康な歯を抜くことに抵抗を感じる人も多いのではないでしょうか。今ある歯をすべて残した状態で、歯並びだけを整えるのが非抜歯矯正です。

非抜歯矯正をするためには、いくつかの条件があります。まず、顎の幅や奥行きに十分な広さがあること。歯並びの乱れかたが軽症なこと。歯そのものや歯肉などの歯周組織が健康であること。こういった条件を満たしていると、抜歯せずにすむ可能性が高くなります。

また成長期であれば、多少顎が小さくても、成長を促すことで非抜歯矯正できる可能性が高まります。

非抜歯矯正のメリットとデメリット

非抜歯矯正のメリットは、なんといっても健康な歯を残せることです。また、歯の移動距離が短くなるため、矯正治療にかかる期間も短くなります。また、咬み合せを考えると、それぞれの歯の負担が少なくなる為、歯が長持ちします。

デメリットとして、口の中のスペースを矯正で広げて歯を並べますので、歯列が広く見え、小さな口元には見えない事があります。

個人差の激しい矯正治療

歯の大きさ、顎や歯槽骨の大きさは、人によって違います。そのため、個人に合わせた矯正治療が必要になります。矯正治療を行う場合は、専門の歯科医師の診断を受け、抜歯と非抜歯それぞれのメリットとデメリットをしっかり把握して納得してから始めましょう。

非抜歯で矯正するにはどんな方法がある?

抜歯矯正と非抜歯矯正のメリット・デメリットをご紹介しましたが、多くの患者さんは、「できたら歯を抜かずに矯正したい」と希望されます。健康な歯を抜きたくないというのは自然なことだと思います。

矯正治療には抜歯が止むを得ない場合も多いとはいえ、多くの歯科医は最初から歯を抜こうとは考えていません。健康な歯を守りたい気持ちは歯科医も同じですので、とくに患者さんから「できたら非抜歯で」と希望があったときには、どうにか非抜歯で治療ができないものかと検討します。

非抜歯で矯正を行う方法の例としては、以下のようなものがあります。(※あくまで一例で、行えない場合もあります)

奥歯を移動させる

非抜歯治療の基本としては、一番奥の歯をさらに奥に移動させ、他の歯の並ぶスペースを確保する方法です。ただ、歯が移動できる範囲は限界がありますので、足りないスペースがその範囲内に収まっていることが条件です。また、親知らずがあると妨げになるため、親知らずは抜歯することになるかもしれません。

歯列全体を横方向へ拡大する

次に、歯列全体を横方向に拡大する方法があります。成長途中の子どもさんですと顎そのものを広げる装置を使いながら矯正を行います。成長が終わっても20歳頃までは顎の境目が少し開くので、多少は顎幅を拡大できる可能性があります。
それ以上の大人の方になると顎幅自体の拡大は見込めませんが、歯列全体を内側から外に向かって押し広げることで少しずつ歯列を拡大していきます。
しかし、こちらも限界があるため、適応できる範囲は限られます。

歯の角度を変える

歯がねじれたり横向きに生えてしまっている場合、歯の角度を立て直してやることで少しスペースが生まれることがあります。反対に、まっすぐ立っている歯を多少斜めにすることで狭いスペースに歯が並びやすいようにすることもあります。
ただ、噛み合わせや見た目的にも理想的な歯の角度というのはある程度決まっていますので、やり過ぎると噛み合わせがズレてしまったり、口元が不自然に見えたりということがあるので、やはり適応できるケースは限られます。

歯を小さくする

歯の移動や顎の拡大だけではスペース確保が叶わず、それでも歯を抜かずにと希望される場合には、エナメル質の一部を薄く削って歯と歯の間にすき間をつくり、抜歯によるスペースの代わりにすることもあります。

以上のような方法を組み合わせ、患者さんそれぞれの状態や仕上がりの希望に対し非抜歯矯正が適しているかどうかを検討します。しかし、明らかに非抜歯が不可能と思われるケースや、非抜歯にこだわるがためにかえって良くない結果を招くと考えられるときには、抜歯矯正を視野に入れて治療計画を立てます。

非抜歯が問題ないと考えられるケース

最近は矯正治療の進化により、非抜歯での矯正でとくに問題なく行えるケースも増えています。

歯の凸凹が部分的・軽度

一口に「歯並びを矯正」と言っても歯並びの状態は非常に個人差が大きいものです。歯列全体はそこそこ整っていて、部分的に歯が重なっていたり、全体が多少凸凹していたりという軽度の方ですと、非抜歯矯正が適応される可能性が高いです。
近年はワイヤーを使わないマウスピース矯正も人気ですが、そちらは部分的・比較的軽度な凸凹の方の非抜歯矯正に向いた方法です。

歯のすき間がある

歯が重なり合って凸凹しているのとは反対に、歯のすき間を埋めたくて矯正される方もいます。いわゆる「スキッ歯」ですが、こちらは基本的に非抜歯矯正で行います(※状態によります)

比較的顎が張って奥行きがある

元々の顎の形が比較的しっかりと張って奥行きのある方は、非抜歯矯正が行いやすい傾向があります。

抜歯矯正が向いていると考えられるケース

上にご紹介したパターンとは反対に、非抜歯にするとリスクが高く、抜歯矯正が向いていると考えられるケースもあります。

歯の並ぶスペースが大きく不足しているとき

矯正がすすめられる歯並びには様々なパターンがありますが、一番よく見られるのは歯が重なりあったりして凸凹している状態です。その状態を叢生(そうせい)と言います。

叢生の原因としては、歯の大きさ・数に対して顎が狭すぎることが挙げられますが、そのギャップがある程度までなら抜歯せずに矯正することも可能です。しかし、顎のスペースと歯の不調和が大きくなれば、歯の数を減らさなければ歯を綺麗に並べることができず、無理に非抜歯にすると顎に負担がかかったり、すぐに後戻りしてしまうリスクが高まります。

出っ歯の傾きが大きいとき

一般的に「出っ歯」と呼ばれるのは、歯の傾きが大きく歯先が前に飛び出している状態です。これも軽度なら抜歯をせずに傾きだけを整えることができますが、傾きが大きくなったり他の歯並びも凸凹していたりすると、抜歯でスペースをつくってから出っ歯の部分を後ろに下げていく必要があります。

歯列全体を後ろに下げる必要があるとき

矯正治療では、横方向の歯の並びを整えるだけでなく、前後方向のバランスも整えなくてはいけません。とくに、下の歯列が上の歯列より前に出ている反対咬合(受け口)や、上下ともが前に出ている上下顎前突では、抜歯してスペースをつくらなければ歯列全体を後ろに下げられないことがあります

歯並び以上に口元全体の変化を希望するとき

矯正治療に求める結果は人それぞれです。「とにかく歯が綺麗に並べばいい」という方もいれば、「出来る限り口元をスッキリ見せたい」と希望される方もいます。非抜歯矯正で歯を並べるだけなら可能なケースでも、口元をスッキリ見せたいなら抜歯が必要と判断されることがあります

この他にも、抜歯が有効と考えられるケースには様々なパターンがありますが、まずは歯や顎の位置、口の中の状態、骨や歯周組織の状態などを十分に調べ、患者さんの希望を聞き、慎重に考えて治療計画を立てていくことが重要です。

非抜歯・抜歯両方が可能なケース

歯科医としてはどちらの選択肢も可能と考えられるケースもありますが、その場合はそれぞれのメリット・デメリット・推測される治療結果の違いなどを示し、患者さん自身に治療法を選んでいただくことになります。

いずれにしても、患者さん自身が納得していないまま、無理に矯正治療を推し進めることは通常ありません。治療前には、どのような方法があるか、抜歯をしなければいけない場合はその理由を説明し、患者さん自身の同意を得てからの治療開始になります。

矯正治療は、歯科医間でも採用している方式、技術、抜歯・非抜歯への考え方、美意識など方針に差が生まれやすい治療です。とくに、抜歯・非抜歯の両方の選択肢があるケースでは、意見が分かれやすいかもしれません。
後で後悔しないためにも、治療前にはカウンセリングや検査のしっかりとした医院で相談し、じっくりと考えて決めるようにしましょう。

納得がいくまで十分な検討を

矯正治療で一番大切なのは、治療前にメリット・デメリットをしっかり踏まえ、患者さん自身が納得した上で治療法を選択されることです。
ここでは一般論としての抜歯矯正・非抜歯矯正のメリット・デメリット・適応が考えられるケースなどをご紹介しましたが、実際には口の中や顎の状態をきちんと調べてみないとわからない部分も大きいのです。

ですので、矯正治療前には十分なカウンセリングと検査を受けましょう。不安やわからないことがあれば、カウンセリングで何でも聞いてみてください。希望はしっかりと伝えてください。
もし、提示された治療法に納得がいかなければ、いくつかの歯科医院で比較してみるのもいいと思います。その際は、良いことばかりではなく、おこり得るデメリットや費用の面も聞いておきましょう。

矯正治療は、単純に歯を並べるだけでなく、口元全体や顔とのバランス、噛む機能性などを総合的に整える必要がありますし、患者さんの状態や希望によって向いている方法も様々です。
治療期間も長く進度に個人差が大きいため、患者さん自身が納得して前向きな気持ちで治療に取り組めること、歯科医とのコミュニケーションが取りやすいことなども矯正成功のポイントになるかと思います。