2018年09月11日
一般歯科

削る虫歯か削らない虫歯か?

削る虫歯か削らない虫歯か?

脱灰と再石灰化

虫歯になってしまったら、絶対に歯を削らなければいけないと思っている方も多いことでしょう。でも最近ではなるべく削らない治療が主流になってきています。

虫歯とは、口の中に棲み着いている虫歯菌の出す酸によって、歯が溶かされてしまった状態のこと。食事をすると、虫歯菌は食べかすから栄養を得て、酸を出します。実は目に見えないだけで、食事のたびに歯は溶かされているのです。この現象を「脱灰」と呼びます。

その状態を解決してくれるのが唾液。唾液の成分の99.5%はただの水ですが、残りの0.5%にはナトリウム、カリウム、カルシウム、炭酸水素、無機リン酸、多数の酵素など、さまざまな物質が含まれています。唾液が口の中に行き渡ることで、脱灰で傷ついた歯の表面を修復してくれるのです。これが「歯の再石灰化」と呼ばれる現象です。

初期の虫歯なら、口の中を清潔に保ち、再石灰化を促すことで、削らなくても治療できるのです。

削らなくても治せる虫歯とは

健康な歯の色は、透明感のある白。しかし脱灰が起きると、透明感がなくなって白く濁って見えるようになります。歯の表面が白くなっていたら、それはごく初期の虫歯です。この状態なら、再石灰化によって回復できます。

さらに虫歯が進むと、茶色に見えるようになります。この状態でも、口の中を清潔に保って再石灰化を促すことで、虫歯の進行を止められるので、削る必要はありません。

歯の溝が黒く見えるようになると、歯の内側で虫歯が広がっている可能性があります。ここまで進行すると再石灰化が追いつかなくなってしまうので、ほとんどの場合は削って治療することになります。

虫歯を削らずに治すために

虫歯とは、歯の再石灰化が脱灰のスピードに追いつかなくなって起こるもの。削らずに治療するには、脱灰をできる限り抑えて、再石灰化のスピードをあげなければなりません。

毎日の歯磨きで口の中を清潔に保つことも大切ですが、それだけでは不十分です。まずは口の中を虫歯のできにくい環境にすること。歯科医院で行われている唾液検査を受けて、自分の口の中がどんな状態なのかをきちんと把握しましょう。虫歯になった原因を突き止めて改善することで、再石灰化のスピードも上げられます。

さらに歯科医院では、虫歯菌を減らすためのクリーニングや、再石灰化を助けるフッ素塗布なども行っています。歯科医院で定期的にメンテナンスを受けて、口の中の環境を整えることで初めて、虫歯を削らずに治すことができるのです。

唾液検査と虫歯予防

唾液検査は、自分自身の虫歯リスクを知ることができる検査です。何がわかるのかというと、唾液の量、酸を中和させる力、虫歯の原因菌の数や種類などです。それらの要素で虫歯になりやすいかなりにくいかに差が生まれます。

唾液の量

唾液は、口の中を清潔に保って細菌の繁殖を防ぎ、虫歯菌による酸を中和して歯を守ります。唾液の量が少なくなってくると、虫歯や歯周病にかかりやすくなったり、口臭が出やすくなったりします。唾液の量が減る原因には、年齢、体調、ストレスなど様々なことがあり、唾液を増やすための方法がよく紹介されていますが、唾液は量だけが多ければいいというわけではありません。それがどの程度の虫歯予防の機能を持っているか、口の中の細菌の状態なども調べ、総合的な虫歯リスクを判断することが大切です。

酸を中和させる力

上で書いたように、虫歯は細菌のつくりだす酸によって引き起こされます。食後は口の中が酸性に傾き歯が溶けやすい状態になりますが、唾液のアルカリ性でその状態が中和されて中性に戻り、歯が少し溶けても再石灰化によって修復されていきます。しかし、そんな唾液の作用にも個人差があります。唾液の中和力が強い人は、食後すぐに歯磨きをしなくても、唾液の力で汚れが流され中性に戻っていきます。
けれど、唾液の作用が弱い人が食べかすを口に長く残していると虫歯リスクが高まります。
そのように、歯磨きの最適なタイミングや回数なども人によって変わります。唾液の状態を知ることで、自分の状態に合わせた食生活や歯磨き習慣の目安を知ることもできるのです。

虫歯の原因菌の数や種類

口の中には数多くの細菌が住んでいますが、それがすべて虫歯の原因となるわけではありません。腸内や皮膚に多くの細菌が住んでいるのと同じで、口の中の細菌もある程度は必要な存在です。しかし、その中に虫歯の原因菌の数が多くなってくると、当然虫歯になりやすい環境になります。虫歯の原因菌の代表はミュータンス菌と呼ばれる種類です。唾液検査では、ミュータンス菌がどの程度住んでいるかを調べることもできます。

唾液検査のメリットとは?

どんな病気でも、効果的な予防や改善をするためにはまず「自分の状態を知ること」が欠かせません。虫歯予防や改善策にも色んな方法がありますが、どんなやり方が向いているかの答えは人によって違います。唾液検査は、口の中の状態を知り、虫歯予防のために有効な手段を考えるために役立ちます
唾液検査によって自分の口の中の状態がわかると、それに合った効果的なケアのアドバイスも受けられますし、自分自身も虫歯予防へのモチベーションが高まります。唾液検査は難しい検査ではないので、一度受けてみてはいかがでしょうか。

検査は専用のガムを噛んで唾液を出すだけで痛みはありません。薬剤の投与や注射が必要なわけでもなく、何かの副作用を受ける心配もありません。妊娠中の女性や小さなお子さんでも受けることができます。

唾液検査はどこででも受けられる?

虫歯予防への意識の高まりで唾液検査も人気になってきていますが、どこの歯科医院でも行っている検査というわけではなく、費用や内容も様々です。事前の注意点などもありますので、唾液検査を希望するときは、ホームページや電話で確認してから予約をするとスムーズに受診できます。
最近は自宅で調べられる唾液検査用のキットも通販などで販売されていますが、唾液検査は、その結果に合わせて効果的な予防や改善策に役立ててこそのものです。自宅では上手く結果が出ないこともあり、自己流の対策で効率的なケアをするのはなかなか難しいことです。虫歯予防や口内環境改善の目的で唾液検査を行うなら、専門の歯科医院で受けることが望ましいでしょう。

こんなときに唾液検査が役立ちます

唾液検査はどんな人にも有効な検査の1つですが、とくに以下のような人には役立ちます。
歯磨きを頑張っているのに虫歯ができてしまう
「虫歯予防には歯磨きが大切」と言われますが、一生懸命歯磨きをしているのになぜか虫歯がすぐにできてしまう…なんて人もいるのではないでしょうか?その原因は歯磨き方法が不十分だったり、歯並びの問題ですき間に汚れが詰まりやすかったりと様々な要素が考えられますが、唾液の機能が弱い可能性もあります
唾液検査でその状態を知り、同時に歯磨きが本当にちゃんとできているかのチェックも受けると改善策がわかりやすくなります。

最近虫歯になりやすくなった気がする

昔は虫歯知らずだったのに、年齢とともに虫歯になりやすくなってきた?と感じる人もいるかもしれません。元の歯質が丈夫で唾液の機能も良かったとしても、年齢や生活習慣の変化によって口の中の状態も変わります。検査をきっかけに虫歯になりやすい生活習慣が増えていないかもチェックしてみましょう。

どういうケアをすればいいのかわからない

最近は多くの情報が簡単に得られますが、色んなことが言われ過ぎ、何をどうやってケアしたらいいかがわからないときもありますよね。適切なケアの方法は、唾液の状態や歯質、生活習慣など様々な要素で人それぞれ違うのです。自分の状態がはっきりわからないままでは、せっかくのケアや高いオーラル製品の効果も上手く発揮されません。

虫歯予防と生活習慣

唾液検査で状態がわかると、歯科医院では改善のためのアドバイスをします。歯科医院で行えるクリーニングや歯質強化のためのフッ素利用などはもちろんですが、虫歯予防には日々の生活習慣も大切な要素です。

自分に合った正しい歯磨き

一生懸命磨いているつもりでも、実際にチェックしてみると歯垢が残っている人も少なくありません。自分1人ではどうしてもクセが出て、似たような場所に歯ブラシが届いていなかったりするのです。
歯科医院では磨き残しを確認し、正しいブラッシング方法のアドバイスを受けることもできます。せっかく歯磨きするのなら、効率的に行いたいですね。

食生活

甘い物が虫歯の原因になりやすいことはよく知られています。砂糖は虫歯菌の大好物だからです。しかし、甘い物は好きでなかなか止められない…という人も多いものです。甘い物をどの程度控えた方がいいかも個人差があり、口の中の状態を知ることで目標がたてやすくなります。
残念ながら、虫歯のなりやすさには個人差があります。体質と同じで、ある程度は自分の歯質と上手く付き合っていかないといけません。虫歯リスクがかなり高まっていると、できるだけ甘い物は控える方が望ましいです。甘い物を控えることで口内環境がかなり改善されることもあります。
ただ単に「甘い物は虫歯になるから」と言われると止められなくても、自分の口の中がどんな状態かを知り、改善のために何が必要かが実感できるようになると、自然と食習慣が変化していく人も多いようです。

健康習慣の1つに予防歯科の活用を

体のことは体格や体力の有無などで比較的判断しやすいですが、口の中のことって自分ではなかなかわかりませんよね。そんなときには歯科医院を気軽に活用してください。
「歯医者さんは治療に行くところ」「虫歯になってもいないのに行ってもいいの?」と思う人もいるようですが、現在の歯科医療は「予防」を一番大切にしています。多くの歯科医院では予防やクリーニングの専門家の歯科衛生士さんがいますし、虫歯予防・口臭・歯の色や汚れが気になるなど様々な相談を受け付けています。
虫歯を削らず治すためには、適切なケアと定期検診が肝心です。しかし、その習慣は同時に歯周病予防・口臭や着色の予防にもなり、全身の健康を積み上げる習慣の1つにもなるのです。