2018年01月14日
一般歯科予防歯科

歯がない状態で、放っておくとどうなる?

歯がない状態で、放っておくとどうなる?

虫歯や歯周病で歯が失われたり、せっかく入れた義歯が合わなかったり、取れてしまったり。それが1本くらいなら「もう少ししてから治療に行こう」「とりあえず食事はできるし、奥歯で目立たないからこのままでいいか」そんな風に放置してしまうこともありますよね。

ですが、歯がない状態で放っておくと、思わぬところに影響が出ることも…。海外のある研究では、「歯を失ったまま放置していると全身状態が悪化するリスクが高まる」という報告もされています。

具体的にはどのような影響があるのでしょうか?

「歯がない状態」は全体のバランスの崩れを招く

歯は、1本1本が独立して単純に骨に埋まっているわけではなく、神経を介して様々な部位とつながり、それぞれが調和し合って機能している臓器の一部です。その1本が失われると全体のバランスに変化が生じ、欠けた部分を補おうと周囲の歯はその空間に向かって移動を始めます。

その動きにともない、顎の骨、歯ぐき、口周辺の筋肉、顎の関節などもじわじわと変化していくため、歯が1本欠けたことによって色んな所に思わぬ影響が及ぶことがあります。

そして、歯には、「噛む」という大切な機能があります。そのバランスが乱れると、口内の健康や見た目の問題だけではなく、全身の健康を支える「食べる」ことに少なからず影響する可能性があり、全身の様々な不調を引き起こすケースが知られています。

歯を放っておくとおこる可能性のある具体的な影響は?
他の歯が空間に寄って歯並び全体が乱れてくる

歯が欠けた部分があると、その空間を埋めようとして周囲の歯が集まってきます。隣の歯はその空間に倒れ込むようになり、相方になっていた歯は空間に向かって伸びてきます。

せっかく真っ直ぐ建っていたはずの隣の歯が斜めになり、横並びになっていた歯の1本が伸びてくるようになれば、歯並びの全体が変化していきます。

抜けて放置しているのは奥歯だったのに、気がつけば「あれ?何だか前歯がガタガタしてきた?歯並びが悪くなってきた?」。歯がない状態で長期間放っておくと、そんなことがおこる可能性があります。

歯が失われた後すぐに対処すれば、欠損した部分を義歯で補うだけの治療負担で済みますが、周囲の歯が寄ってしまった後に治療しようとすると色々と大変です。結果的に治療期間や費用が多くかかってしまうことになります。

他の歯にかかる負担が重くなる

普段はあまり意識することがありませんが、食べ物を噛んでいるときに歯へかかっている負担というのはなかなかのものです。1本歯が欠けるとその負担を分け合う仕事仲間が減るようなもので、当然周囲の歯にかかる負担は大きくなります。

その結果、残った他の歯の方も寿命を縮めてしまう可能性があります。とくに、抜けた歯の周囲は隣の支えを失って不安定な状態にあるため、根の部分に大きな負担がかかりやすくなります。

虫歯や歯周病で歯が失われた場合、その周辺の歯も細菌に侵され弱っているリスクが高いため、その状態で根に過度な負担をかけ続けてしまうと歯がグラグラしてくることも…。失った歯の部分を適正な方法で補うことは、他の歯の負担を軽減させることにつながります。

食べ物が上手く噛めなくなって食生活に変化がおこる

人間には「慣れ」という武器があるので、歯が1本くらい無くてもその状態で不自由なく食事が続けられたりもします。

ですが、歯が1本失われたことで確実に「噛む力」は弱くなり、自分でも気づかないうちに食べ方に変化が表れることがあります。あまり噛まずに飲み込んでしまったり、噛みにくいものを自然に避け、柔らかですぐに食べやすいものばかりを好むようになったり、食生活に変化がおこる人は多いようです。

あまり噛まずに飲み込んだ場合、消化を助ける唾液の分泌が減った上に食べ物の塊が直接胃腸に放り込まれるため、胃腸に負担がかかって消化が悪くなります。

噛む回数が減ると満腹中枢が刺激されず、食べ過ぎの傾向になってしまったり、反対に、あまり味わうことができなくなって食欲が失われ、食事量が減って栄養が不足したりすることがあります。

歯が欠けていると硬い肉や野菜や大豆製品などの歯ごたえのあるものが食べづらくなり、簡単に食べられるパン、麺類、スナック類、ファーストフードなどに偏った食生活になる傾向が高く、生活習慣病にかかりやすくなると言われています。

口元や顔全体の印象が変化する

前歯が失われた場合、口元や表情の印象は明らかに変化します。そのため、前歯が欠けたのを放っておく人は少ないと思いますが、これが奥歯になると「まぁ、人から見えないし」と、つい放置しておいてしまいたくなりますよね。

ですが、奥歯の放置は機能性の問題ももちろんですが、上でご紹介したように顎や口まわりの筋肉のバランスに影響を与え、口元が歪んだり、顎の位置がずれてしまったりすることがあります。

その影響は小さいように見えても、全身はつながっているので首や肩の方にも及び、首コリや肩コリ、頭痛の原因となるケースもあります。

また、歯が無い方を避けて片側でばかり噛むようになって片方のエラが張ってきたり、噛まない方の筋肉が弱ってバランスが崩れ、顔全体が何となく垂れ下がってきたりすることがあります。

滑舌が悪くなる

歯が失われて空間が開くと、そこから息がもれるので発音しにくい音が出てきて滑舌が悪くなってしまうことがあります。とくに「イ」の音。「キ」「シ」「チ」などの音が出にくく、言葉が不明瞭になりがちです。

精神的な影響が及ぶ

「人からは見えないし…一応物は食べられているし…」と思いつつ、歯が欠けている状態で全く気にしないという方は少ないのではないでしょうか?

普段通りに生活しているつもりでも、何となくそこに意識が向いてしまったり、人と至近距離で話すと「歯が欠けているのがバレるかも?」と心配でついつい下を向いたり手で口を隠したり。大口を開けて笑えなくなったり。

それは小さな積み重ねですが、長期間続くと意外なほど大きな精神的ストレスとして影響することがあります。

踏ん張りがきかなくなる

重いものを持ち上げたり、瞬発力を出したりしようとするとき、たいていの人は無意識に歯をグッと噛みしめています。あの噛みしめによって踏ん張りの力にはかなりの差が生まれると言われています。

そのため、歯が失われて噛みしめの力が弱くなると、踏ん張りがききにくくなってしまいます。とくに、重いものを持つ機会の多い仕事の人、スポーツをやっている人などにとって、踏ん張りの力は重要です。歯が欠けている状態で噛みしめを続けると、今度は他の歯に負担がかかり過ぎてしまいます。

最近はその関連性が様々な研究などでわかってきているため、一流のスポーツ選手ほど歯のケアをとても大切にするそうです。

失った歯を補う方法は?

歯が失われたときに補う方法としては、主に3つの選択肢があります。

① ブリッジ
② 部分入れ歯
③ インプラント

ブリッジ

残っている両側の歯を支えにして人工歯の橋をかける方法です。失われた歯が数本までのときに適応され、健康保険内での治療が可能です。

・メリット

・比較的費用が少なくて済む
・入れ歯のように取り外す必要はなく固定される

・デメリット

・支えとなる両側の歯を少し削る必要がある

部分入れ歯

部分入れ歯には、保険適応のものと自費診療のものがあります。保険適応のものは基本金属のバネで残った歯に引っ掛けて使います。自費診療のものにはバネのないタイプが多く、磁石をつかったもの、やわらかな素材を使ったもの、見た目が自然なもの、残った歯に被せて固定できるものなど様々な種類があります。

・メリット

・ブリッジのように他の歯を削ることがない(※種類によっては必要な場合があります)
・保険適応内のものなら1回の治療費が比較的安くなる

・デメリット

・保険適応のものはバネが目立ったり外れやすかったりという問題がおこりやすい
・自費診療のものは全体に費用が高額になる
・毎日取り外してのお手入れが必要になる

インプラント

インプラントは、失った歯の土台となる歯根の部分から建て直す方法です。抜けてしまった歯の根の代わりには、人間の骨との適応性の高いチタン製の人工歯根が主に用いられ、その上に人工歯を取り付けます。他の2つの方法に比べると、根の部分から補えるので安定性や機能性に優れ、見た目にも天然の歯に近い状態になります。

・メリット

・根の部分から補えてしっかり固定されるので安定性や機能性が高い
・見た目にも自然の状態に近くなって義歯ということが外目にはわかりづらい

・デメリット

・骨に人工歯根を埋め込むために外科手術が必要
・自費診療の上に素材が高価なので治療費がかかる