2018年06月19日
一般歯科

歯を削ると歯は悪くなる?

歯を削ると歯は悪くなる?

虫歯の治療といえば、歯を削って詰め物をすることと思っている人が多いのではないでしょうか。でも最近では、なるべく削らない治療が行われています。その理由は、歯を削ることで歯を弱くしてしまうからなのです。

歯の一番硬い部分が傷つく

歯は全体が同じ材質でできているのではありません。歯の中心部には神経や毛細血管が通っている空洞があり、その周りは柔らかい象牙質になっています。そして表面を覆っているのが、非常に硬いエナメル質です。
歯を削るときには、その硬いエナメル質に穴を開けることになります。すると、柔らかい象牙質がむき出しになり、歯が弱くなってしまうのです。

詰めものが歯の負担に

歯を削った後には、詰めものや被せものをして穴を塞がなければなりません。詰めものをする際には、レジンなど歯に近い材質を使いますが、どうしても硬さに違いが出てきます。
硬さの違う材質は、ものを噛むといった衝撃を受けた時の吸収度も違います。そのため、詰めものをした歯でものを噛んでいると、歯に負担がかかってしまうのです。それが長い期間続くと、歯が割れてしまうこともあります。

健康な歯を削ることも

治療で削り取った部分が大きい場合、歯の型を取って被せものをします。ものを噛む時に歯にかかる衝撃は約60kgといわれていますから、被せものにもある程度の厚みや強度がないと、すぐに壊れてしまいます。

しかし、厚みのある被せものをそのまま被せたのでは、歯の高さが変わってしまいます。すると、ものが上手く噛めなくなってしまうので、健康な部分まで削って、歯の高さをそろえる必要があるのです。

さらに、どんなに精巧な被せものでも、長年使っていれば歯との間に隙間が空いてきます。するとそこに歯垢が溜まり、虫歯になってしまうことも。そうなったら被せものを取って、再び歯を削らなければいけません。

歯科治療の主流は予防治療

歯は一度削ってしまえば、二度と生まれ持った状態に戻ることはありません。つまり、削ることそのものが、体に負担をかけることになってしまうのです。

ごく初期の虫歯なら、歯のクリーニングをして再石灰化を促すことで、削らずに治療ができます。しかし、症状が進んでしまうと、削らずに治療することは不可能です。削ることは良くないからと放置していては、虫歯はどんどん進行してしまいます。
まず、虫歯にならないようにしっかりと予防すること。それが最近の歯科治療の主流になってきています。

予防歯科のメリットは?

予防歯科の中心は、定期的な検診やクリーニングです。3ヶ月~半年に1度くらいのペースで検診やクリーニングを習慣づけておくと、虫歯を早期発見できるのはもちろんですが、口内環境が良くなることで虫歯そのものにかかりづらくなり、歯周病や口臭など他のトラブルのリスクも低めることができます。

ある程度進行した虫歯は、全く削らずに治すことができません。けれど、検診でかなり早期に発見できた場合、削らずに進行を防いだり、再石灰化によって再生を促せる可能性があります。

歯の再石灰化とは?

歯の表面をおおうエナメル質は、非常に硬いわりに酸には溶かされやすいという弱点があります。そのため、通常の口の中は中性近くに保たれていますが、食事をすると口内微生物が栄養を分解して酸をつくり、口の中が酸性に傾き始めます。

口の中が酸性になると、エナメル質からミネラル分(カルシウムなど)が溶け出し、歯がやわらかくもろい状態になってしまいます。しかし、口の中が健康なら唾液の作用で酸を中和し、溶け出したミネラル分を再び取り込んで元の状態に戻ることができます。

そのような歯の再生機能を「再石灰化」と呼びます。本来は、再石灰化の力によって歯に穴が開くことが無いようになっているのです。

ところが、口内環境が悪い状態が続くと虫歯菌が繁殖し、つくり出される酸が増えて再石灰化の機能が追いつかなくなり、歯に穴が開いてしまいます。それが虫歯の状態です。

初期に虫歯が発見できれば削らずに済む可能性も

いったん感染した虫歯菌は、歯につくったバリアの中で繁殖を続け、どんどん歯を溶かしていきます。そしてエナメル質から内部の象牙質、その奥の神経へと虫歯が進行します。そうなれば、虫歯に侵された部分を削って取り除くしか進行を食い止める方法が無くなってしまいます。

しかし、ごく初期の段階で虫歯を発見することができれば、専用の機器を使ったクリーニングや、歯の再石灰化を促すフッ素を利用することで、進行を防げる可能性があります。

また、そこからほんの少し進んだ程度の虫歯なら、表面をわずかに除去して薬剤で殺菌し、プラスチックやセメントで埋めるだけの治療で済むこともあります。

ごく初期の虫歯とは、痛みや目に見える変化は無く、歯の表面が白っぽく濁って見えるかな…?程度の状態で、一般の方が自覚するのは難しいです。歯の状態が不安な方は歯科医院でチェックしてもらいましょう。

進行した虫歯は削らず治療できないの?

歯を削らない治療…それは多くの方が望んでいることと思います。上にも書いたように歯を削ることには様々なデメリットもありますので、歯科医としても削らずに治療ができるなら、そんな素晴らしいことはありません。

しかし残念ながら、ある程度進行した虫歯は、やはり削らないわけにはいかないのが現状です。なぜかというと、歯に住み着いた虫歯菌は強力なバリアのような膜に守られており、抗菌剤などの作用だけでは完全に退治することができないからです。

「なるべく削らない治療」として、薬剤を使って虫歯部分を溶かしたり、抗菌剤を詰めたりする方法はありますが、全く歯を除去しないわけにはいきませんし、削る治療法に比べると効果に個人差が生まれやすく、適応できるケースがかなり限られてしまう難点があります。

万が一虫歯菌が完全に退治されずに残った場合、虫歯の再発や周辺の歯や組織へと感染が広がるリスクが高まってしまうため、現段階では、感染した部分を削り取ることが一番確実な方法とされています。

ただ、削る範囲については、「できる限り最小限で」というのが現在の虫歯治療では基本の考え方になってきています。

なるべく歯を削らない『MI治療』とは?

ひと昔前は、「虫歯の部分は十分に取り除く方がいい・神経は早めに抜いた方がいい」という考え方が虫歯治療の主流でした。

けれど、その後の研究などで「歯を削り過ぎたり早く神経を抜いたりすると、かえって歯の寿命を縮めてしまうケースもある」ということがわかってきたのです。そのため現在は、本来の歯や神経をできるだけ残しながら治療する『MI治療』が歯科治療の大切な姿勢とされています。

『MI』はミニマムインターベンション(Minimum Intervention)の略で、和訳すると「最小限の侵略」という意味になります。2000年に国際歯科連盟が提唱し、日本でも多くの歯科医がMI治療を実践しようと取り組んでいます。

とはいえ、ある程度ひどい虫歯になれば、やはり十分に削って神経も抜かなくては他の部位へと被害が広がってしまいます。さらに進行すれば、最悪歯を根っこから抜かなければいけないこともあります。そのため、『MI治療』の実践に一番重要なのは「早期発見・早期治療」です。

だからこそ、予防歯科の重要性が大きくピックアップされてきているのです。

健康保険外の虫歯治療

現在は、保険治療の範囲でも「できるだけ歯を残せるように」と考える歯科医が増えています。技術の進歩により、昔よりは歯を守れる範囲が増えてきています。
そして、それを補助するための治療法として、健康保険外の治療もいくつか存在しています。健康保険外の虫歯治療には、どのような種類があるのでしょうか?

カリソルブ

歯科先進国スウェーデン発の治療法で、薬液を使って虫歯部分を溶かす方法です。削るよりは除去する範囲が少なく、ドリルを使わないので「どうしても削るのは嫌だ」という方に向いています。ただ、保険が効かないこと、適応できるケースが限られること、処置に時間がかかることなどがデメリットです。

ドックベストセメント

アメリカ発の治療法で、特殊なセメントに含まれる鉄イオンと銅イオンの殺菌力を利用し、虫歯を無菌化しようとする方法です。表面部分は削らなくてはいけませんが、虫歯部分をある程度残したままセメントを詰めて殺菌を期待しますので、削る範囲は少なく、神経を守れる可能性が高くなるとされています。

3Mix-MP法

3種類の抗生物質・抗菌剤を混ぜたものを虫歯部分に詰め、殺菌効果による虫歯の軽減を期待した方法です。全く歯を削らないわけにはいきませんが、治療範囲を減らし神経を残せる可能性が上がると言われています。

これらの方法は効果に個人差があり、歯を削る保険内の治療法に比べると適応できるケースが狭いのが難点で、多くの歯科医院が行っているメジャーな治療法というわけではありません。すべて自費診療のため、費用も歯科医院によってかなりの差があります。

検討するときには、トータルの費用、期間、メリット・デメリットなどをよく聞くことが大切です。

虫歯は早期発見・早期治療が大切

現在虫歯が進行中の方は、できるだけ早く歯科医院を受診してください。虫歯はごく初期の段階を除き、自然に回復することはありません。放置すればするほど進行し、ますます削らなければいけない範囲は増えていきます。

歯をどの程度削らなければいけないか、治療にはどういう選択肢があるのか、それは虫歯の状態によって様々ですので、まずは口の中を丁寧にチェックする必要があります。

虫歯治療に対して不安を抱えている方は、初回のカウンセリングに力を入れている歯科医院を選ぶといいかと思います。虫歯の状態がどうなっているか、治療にはどういう選択肢があるのかなどの説明を治療前に受けることができます。

虫歯の一番の治療法は予防

この先もっと研究や技術が進化すれば、本当に歯を削らず虫歯を治せる時代がくるかもしれませんが、今はどれも可能性の段階にとどまっています。

歯を削ることには様々な負担もありますが、進行した虫歯の被害をそこで食い止めるためには止むを得ないのです。
そのため、虫歯の一番の治療法は「予防」です。せっかく頑張って治療をしても、口内環境が悪いままだと今度は他の歯が虫歯になってしまう可能性が高いのです。

口内環境の悪さは虫歯にとどまらず、歯周病・口臭・歯の着色などのトラブルも引き起こします。この先少しでも美しく健康な口元を保つためにも、日ごろの歯磨きに加え、歯科での定期健診・クリーニングの習慣を取り入れてみましょう。